OTOF(オーティーオーエフ)遺伝子は、先天性難聴の原因として知られている遺伝子の1つです。
特に「聴覚ニューロパチー」と呼ばれる難聴と深い関係があり、新生児聴覚スクリーニングをきっかけに見つかることもあります。
最近ではOTOF遺伝子を対象とした遺伝子治療の研究が大きく進み、海外では実際に聴力の改善が報告されるようになりました。
そのため、「難聴は治らない」という常識が変わるかもしれないとして、世界中で注目を集めています。
この記事では、OTOF遺伝子の役割や先天性難聴との関係、聴覚ニューロパチーの特徴、人工内耳による治療、そして最新の遺伝子治療研究について、できるだけわかりやすく解説します。
そもそも先天性難聴とは?
- 先天性難聴とは生まれつき聞こえにくさを持つ状態
- 1000から1500人に1人の割合で発生するとされている
- 原因の多くは遺伝子で、OTOF遺伝子もその1つ
先天性難聴とは生まれつき聞こえにくい状態
先天性難聴とは難聴の症状を生まれつき持っている状態を指します。
これに対して、ある程度成長してから難聴になってしまうことを後天性難聴と呼びます。
ちなみに私の妻は後天性の難聴です。
先天性難聴であるかどうかは子どもが産まれてくるまではわかりません。
産まれてから新生児スクリーニングという音に対して反応があるかを観る検査をして判断することになります。
難聴の種類について紹介している記事もあるので、ぜひこちらもご覧ください。
https://www.hearinglog.com/hard-of-hearing/what-kind-of-hearing-loss/
先天性難聴はどのくらいの頻度で起こる?
先天性難聴は他の先天的な症状に比べると発生率が高い症状の1つになります。
頻度でいうとおよそ1000人に1人の割合で先天性難聴になるとされています。
難聴にも片方だけ聴こえない、聴こえない程度の違いなどはありますが、全部含めておよそこのくらいの発生率となります。
例えば生まれつき目が見えない全盲の割合も同じような割合となります。
およそ1000人に1人と聞くと、決して珍しい病気ではないことがわかります。
原因は遺伝子と環境要因に分けられる
難聴になる原因は遺伝子の突然変異によるものであったり、騒音などの環境要因があります。
ですが、先天性難聴では主に遺伝子を原因としたものになります。
人間の遺伝子は2万から2万5000ほどあると言われていますが、その中で難聴に関係する遺伝子は100種類ぐらいと言われています。
これが全て先天性難聴に影響を及ぼすわけではなく、後天的な難聴のなりやすさだったりにも影響を及ぼします。
音はどのように耳から脳へ伝わるの?
- 音は外耳から中耳、内耳を通って、聴神経から脳に届けられる
- 脳は音ではなく電気信号から音を認識している
音が聞こえる仕組み

私たちは特に意識せずに耳で音を聞いていると理解していると思います。
実際に音はどのように聞いているのでしょうか。
音は耳を通じて聞いていますが、耳は外耳 -> 中耳 -> 内耳というパートに分かれています。
耳介(耳たぶとかあるとこ)と呼ばれる部分で音を集めて、耳の穴から音が入ってきます。耳の穴から入った音は鼓膜へ到達します。
この耳介から鼓膜の手前までを外耳と呼びます。
鼓膜はよくきいたことがあると思いますが、鼓膜に音が達すると耳小骨(じしょうこつ)へ伝わります。
この鼓膜と耳小骨の部分が中耳です。
鼓膜は外からのゴミを防ぐ役割や、耳小骨に振動を伝える役割があります。
耳小骨では鼓膜の振動を受けて、音を増幅します。だいたい30倍に音を増幅していると言われています。
ここから先は内耳となり、三半規管や蝸牛で構成されています。
蝸牛には有毛細胞という毛の細胞があり、増幅された音を毛の振動で電気信号に換えて、聴神経から脳に届けます。
内耳の有毛細胞が重要な役割を持つ

音が聞こえる仕組みの中で、どれも大切なのですがその中でも有毛細胞が脳へ届ける電気信号を作っているので非常に重要な役割を持っています。
この有毛細胞が正しく機能していないと、音は聞こえていても正しく脳に音として伝わらないために、何を言っているのかわからないとか、聞こえている音と違う言葉に聞こえるということが起こります。
有毛細胞より前で問題が有る場合は、単純に音が小さく聞こえるだけで音自体が変化するということはないケースがほとんどです。
有毛細胞について詳しく紹介した記事も用意しています。こちらもぜひご覧ください。
https://www.hearinglog.com/hard-of-hearing/haircells/
音の情報を神経へ伝える仕組み
有毛細胞がどのように音を電気信号に変えているかというと、蝸牛とよばれる器官に毛(有毛細胞)がずらーっと並んでいます。
手前から低い音を感知して、奥に行くほど高い音で振動します。
この毛が振動すると、その高さの音が聞こえているんだよ!と電気信号が発生して、その信号が聴神経を通って脳に伝達され、脳が音だ!!と認識するという流れになっています。
有毛細胞についてもっと詳しく知りたい場合はぜひ有毛細胞の概要記事を確認してみてください。
OTOF遺伝子とは?
- オトフェルリンというタンパク質の設計図がOTOF遺伝子
- オトフェルリンがないと脳に電気信号を送れない
OTOF遺伝子は「オトフェルリン」を作る設計図
遺伝子とは体を作るための設計図になるのですが、OTOF遺伝子というのはその中でオトフェルリンというタンパク質を作るための設計図になります。
オトフェルリンなんて聞いたことない!という人がほとんどだと思います。
正直私も聴力の遺伝子治療が盛り上がり始めるまで全然知りませんでした。
オトフェルリンの役割

オトフェルリンとは有毛細胞が神経伝達物質を放出するのを助けるタンパク質です。
先程紹介したように、音は有毛細胞によって電気信号に変換されて、聴神経を通り脳に送られます。
オトフェルリンは有毛細胞と聴神経の間で働き、有毛細胞が音を感知したらオトフェルリンは有毛細胞が神経伝達物質を放出するのを助ける役割を持っています。これにより、音の情報が聴神経へ受け渡され、最終的に脳が音だ!と認識します。
OTOF遺伝子に異常があると何が起こる?
このOTOF遺伝子に異常があると、オトフェルリンの生成が上手くいかずに、聴神経から脳に信号を届けるためのスイッチが上手く働かなくなってしまいます。
こうなると音は耳に届いていても、有毛細胞で変換された電気信号が正しく脳に伝わりません。
そうなると音としては聞こえていた場合でも、本来耳から入ってきている音とは違う音が脳に届くということになり、正確に音を理解することができなくなります。
OTOF遺伝子変異による難聴の特徴
- 音は届いているが脳に電気信号が送られないため、脳が反応しない
- この状態を聴覚ニューロパチーと呼ぶ
音を感じても脳へうまく伝えられない
先程言った通り、オトフェルリンがないとつなぎ役がいないので、電気信号を脳に届ける役目をしてくれるやつがいません。
そうなると音としては耳に入っていますが、電気信号に変換された言葉は正しく脳に伝えられなくなってしまいます。
Auditory Neuropathy(聴覚ニューロパチー)との関係
OTOF遺伝子に異常があると、音自体は耳に入っているけど、脳に電気信号が送られず反応がないと解説しました。
聴覚ニューロパチー(Auditory Neuropathy Spectrum Disorder : ANSD)は、音が内耳までは届いているものの、聴神経やその先への情報伝達がうまくいかない状態を指します。
そのため、音は聞こえるけど言葉として理解しにくいという特徴が見られます。
OTOF遺伝子異常以外にも原因はありうるのですが、OTOF遺伝子異常がこの聴覚ニューロパチーに深く関わっているのは明らかですね。
新生児聴覚スクリーニングで見つかることもある
赤ちゃんが産まれると新生児スクリーニングという検査で新生児の耳が聞こえているかを検査します。
新生児スクリーニングには耳音響放射(OAE)と聴性脳幹反応(ABR)の2種類があります。
耳音響放射は有毛細胞が正しく機能しているかをみることができ、聴性脳幹反応は音を聞いたときの脳の反応をみます。
耳音響放射は問題なく聴性脳幹反応がない場合、このOTOF遺伝子異常である可能性が高いです。
新生児聴覚スクリーニングについて解説した記事も用意しているので、ぜひご覧ください。
https://www.hearinglog.com/hard-of-hearing/newborn-hearing-screening
OTOF関連難聴は遺伝するの?
- OTOF関連難聴は常染色体劣性遺伝
- 両親とも保因者の場合、25%で遺伝する可能性がある
難聴の遺伝について解説した記事も用意しています。ぜひこちらもご覧ください。
https://www.hearinglog.com/hard-of-hearing/advantages-of-genetic-screening/
常染色体劣性遺伝とは
遺伝子とは我々の体を作る設計図です。この遺伝子ちゃんは私たち人間には2万から2万5000ぐらいあると言われています。
それで、この遺伝情報を格納しているところが染色体というところになります。
赤ちゃんは親からこの染色体をそれぞれもらってきて、1つ対になる染色体を形成します。
その中で変異というのが起こります。
“突然変異”って聞いたことありませんか?
これがそいつですね。
染色体は全部で46本(23対)あるんですが、常染色体とはそのうちの22番目までをいいます。
例えば親からもらってきた染色体で変異が起こった場合、元々あった設計図が上手く機能しなくなるわけですけど常染色体は2本で1対なので、片方変異しただけでは問題ありません。
この染色体の片方が変異して症状が出ていない人を保因者と呼びます。
常染色体劣性遺伝とは、この1対の両方に変異があって発症する遺伝のことをいいます。
両親が保因者の場合の確率
私たちは2本で1対の染色体を持っていると紹介しました。
そのため、私たちの親も2本ずつ染色体を持っています。
母親に2本、父親に2本の計4本あるわけですね。
例えば親に特に何も障がいがない場合、親の染色体は変異していないかと言われると、そんなことはなくて
2本のうち1本は変異している可能性があります。つまり、親が保因者である可能性があります。
この4本から染色体を1本ずつもらってくるわけですが、両親が2人とも保因者だった場合パターンとしては
- 変異なし-変異なし
- 変異あり-変異なし
- 変異なし-変異あり
- 変異あり-変異あり
の4パターンとなり、両親ともに保因者の場合の発症率は25%となります。
遺伝カウンセリングの重要性

私たち夫婦も、子どもに難聴が遺伝するかもしれないという不安がありました。
実際に子どもを授かった時には医師にも相談をしています。
こういう子どもが遺伝による病気や体質に対する不安や疑問を聞いてくれるサービスが遺伝カウンセリングです。
専門知識を持った医師やカウンセラーが相談に乗ってくれるので、夫婦で悩むよりもずっと楽になります。
私たちの場合は優性遺伝ではなく劣性遺伝だから、遺伝するかもしれないししないかもしれない。つまり、産まれてみないと分からない!という高尚なアドバイスをもらいました!
ただ誰にでも発症する可能性があって、それは親のせいじゃないと言ってもらったので、妻はわかりませんが私はじゃぁ悩んでもしょうがないなという気持ちになれました。
ここの感じ方は人それぞれだと思いますが、専門家と相談できる場があるというのは非常にありがたいと感じましたね。
OTOF遺伝子変異による難聴の診断方法
- 赤ちゃんの場合は新生児聴覚スクリーニングを実施
- 聴力検査やABR検査、遺伝学的検査により診断可能
聴力検査
聴力検査には私達が健康診断などでよく実施する、「ピー」という音が聞こえるかを試す純音検査と、音声が正しく聞こえていくかを確認する語音弁別検査というものがあります。
聴覚ニューロパチーの場合はどちらか一方の検査ではなかなか全容が把握できないため、両方の検査を実施する必要があります。
OTOF遺伝子変異による難聴の場合、音自体は耳に届いている場合が多いので比較的純音検査に幅があり、言葉の聞き取りがうまくいかずに語音弁別検査で課題がみられケースがあります。
聴力検査自体はOTOF遺伝子変異による難聴用に特別な検査があるわけではなく、どちらも一般的に行われる聴力検査です。
なかなか聴力検査について調べる機会もないと思うので、よかったら聴力検査についての記事もご覧ください。
https://www.hearinglog.com/hard-of-hearing/hearing-test/
ABR検査(聴性脳幹反応検査)
ABR検査は新生児聴覚スクリーニングでも少し触れましたが、音が入ってきたときに脳が反応するかをみる検査です。
音が届いたときに、脳が反応していれば正しく音が伝わっていると判断することができます。
遺伝学的検査
私の妻も実際にやったことがありますが、こちらは遺伝子を検査して難聴に関係する遺伝子に変異があるかを調べるというものです。
難聴に関係している遺伝子は全部で100個ほどあると言われていて、これらの遺伝子に変異があるかをみます。
OTOF関連難聴の治療法
- 現在は治療法はなく、人工内耳による補聴が主
- 発話の発達のためにも早期発見、早期介入がベスト
補聴器は効果がある?

OTOF遺伝子による先天性難聴で通常補聴器は選ばれません。
補聴器は音を聞き取りやすい状態に増幅、加工してくれるものになるので、有毛細胞までに問題がある場合に特に有効です。
OTOF遺伝子異常の場合はその先の電気信号を脳に届ける部分に問題があるので、基本的には補助の目的が異なります。
補聴器について詳しく紹介している記事があるので、こちらもご覧ください。
https://www.hearinglog.com/hard-of-hearing/hearing-aid/types/
人工内耳が有効なケース
OTOF遺伝子異常でより効果を発揮するのが人工内耳です。
人工内耳は直接聴神経を刺激して、電気信号を脳に伝えるものになります。
高度から、重度難聴のひとに主に使われます。
OTOF関連難聴は人工内耳との相性が良く、高い効果が期待できることが知られています。
聴覚ニューロパチーの場合は人工内耳を選択することをおすすめします。
補聴器は聞いたことあるけど、そもそも人工内耳ってなに?というあなた!なかなか機器馴染みがないですよね。
人工内耳とはどんなものか紹介しているので、こちらの記事もぜひご覧ください。
早期発見・早期介入が重要
新生児聴覚スクリーニングで早期に難聴を発見するのには理由があります。
それは言葉の発達に大きく影響を及ぼすからです。
早い段階で難聴を見つけて、人工内耳などで補聴することで音を正しく理解し、発話、発語を練習する必要が有るからです。
例えば私は日本語はネイティブ、多少英語が話せる程度になります。
そこで中国語で話しかけられても音としては聞き取れてますけど、何を言っているのかわからないですし、今言ったことを繰り返せと言われても無理なわけです。
何回も聞いて練習する必要があります。
赤ちゃんも親や周りの話を聞いて、言語を取得していくわけですよね。
早くに発見して補聴してあげることでそれをできるようにしてあげるのが重要だと思います。
OTOF遺伝子治療の最新研究
- 遺伝子治療は実験段階から臨床成功段階に入った
- すでに聴力が改善したケースも報告されている
遺伝子治療とは
遺伝子治療はここ数年盛り上がっている分野で、今までは実験段階だったものが2024年から25年ごろより臨床成功の段階に入りました。
これは先天性難聴の子供に、欠損しているOTOF遺伝子を内耳へ投与し、聴力を回復させる治療法です。
海外で報告された治療成果
実際にOTOF遺伝子治療の実験において、聴力が改善している事例が報告されています。
例えばイギリスの女の子や中国で成功した事例が報告されています。
今後実用化される可能性
今現在、すぐに遺伝子治療が実用化されるとは考えにくいですが、実際に成功事例も報告されており実用化に向けて着実に進んでいるのは間違いないと思います。
難聴は治らないと言われ続けてきましたが、近い将来先天的な難聴も治る未来がくると思います。
ただ、日本においては安全性の確認やらいろいろあると思うので、どのくらいで実用化されるのかは不明です。
OTOF遺伝子に関するよくある質問(FAQ)
ここではOTOF遺伝子に関する質問についてお答えします。
OTOF遺伝子異常は治りますか?
現在のところ残念ながらOTOF遺伝子異常は治すことはできません。
近い将来遺伝子治療によって、治すことが可能になる可能性はあります。
OTOF関連難聴は進行しますか?
OTOF関連難聴は進行性の難聴ではなく、先天的なものです。
もちろん、オトフェルリンより前の外耳から内耳にかけてにダメージを受けたりすると、別の要因による難聴の悪化は懸念されるので注意してください。
補聴器と人工内耳のどちらが良いですか?
OTOF遺伝子異常による難聴は聴神経に信号がいかないという問題があるので、そこを補うことができる人工内耳がおすすめです。
それ以外の外耳から内耳にかけて、問題がある場合には補聴器もいい解決策だと思います。
遺伝子検査は誰でも受けられますか?
難聴が遺伝するか気になる場合、遺伝子検査は耳鼻咽喉科などで誰でも受けることができます。
実際にうちも検査しています。
遺伝子治療は日本でも受けられますか?
現在のところ、遺伝子治療を日本で受けることはできません。
OTOF遺伝子は親から必ず遺伝しますか?
いいえ。OTOF関連難聴は常染色体劣性遺伝であることが多く、両親が保因者であっても必ず発症するわけではありません。両親ともに保因者の場合、子どもが発症する確率は25%とされています。
まとめ
OTOF遺伝子は音を神経へ伝えるために重要
遺伝子変異により先天性難聴が起こる
人工内耳が有効な場合が多い
遺伝子治療の研究が急速に進んでいる
将来的な治療法として期待されている
OTOF遺伝子について理解が深まったでしょうか。
耳ログでは、先天性難聴や人工内耳、新生児聴覚スクリーニングについても詳しく解説しています。


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